カメラの技術が発展し、今やスマホでも驚くような写真が綺麗に、簡単に、撮れる時代になりました。
それ故に人は、目の前の素晴らしい景色を、瞬間を、とにかくそのカメラに収めようとします。
もしかしたら、自分の目そのものよりも、レンズを通して見ている時間の方が長いのではないのかというくらい。
ぼくはこの旅を、一体どれくらい、自分の目で見たのか。
この日のルート
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アンテロープ・キャニオンへ
前日はページの町で不安要素だったオイル交換も無事に処理もでき、観光もほどほどに、適当なガソリンスタンドで一夜を迎えました。
そして早朝。
事前に予約を入れておいたアンテロープキャニオンのツアーに参加するため、朝6時ごろに、ツアーの集合場所へ。
朝一番の便しか空いていなかったのでそれに参加したのですが、ぼく以外にも多くの参加者がいました。
他州からやってきた女子大生三人組と老夫婦、韓国から来た二人組と一緒にツアーバスに乗り込み、15分ほど走りながら、現地へと向かって行きます。
ガイドの兄ちゃんはネイティヴで、恐らくずっとここで、このガイドの仕事をし続けているよう。
彼の運転でたどり着いたのは自然保護区内のエリアで、一般の人が勝手に入ることはできないようです。
ぼくらが到着した時にはすでに違うツアー会社らしきところのバスがすでに何台か来ており、先客がいるようでした。
バスを降りた目の前には、あの入り口。
あの憧れの景色への入り口が、目の前にあるという事実に、胸が高鳴りました。
しかし、嬉しさに身を任せてこの中に飛び込んでいくことはできません。
どうやらツアー会社同士で、一団体がどれくらいのスピードでこのエリアを行き来するのかの取り決めがあるようで、ガイドのスピードに合わせて、少しずつ奥へと進んでいく形でした。
目の前に現れた景色は、まるで絵画。
計り知れない時を経て、風の通り道として出来上がったそのトンネルの形には、思わず息を飲みました。
吹き抜けていく風。
砂の落ちる音。
そこに座り込んで、しばらく耳をすませていたくなる、そんな空間。
ですが、現実は甘くありません。
だいたい400mほどしかないこの峡谷に滞在できる時間は限られており、また他のツアー客との兼ね合いで、移動を急かされます。
また、そんな短い時間の中でこの絶景を写真に収めようと皆必死でシャッターを切りまくり、とにかく記念撮影の嵐。
ガイド側もそれは百も承知で、「ここがベストスポットだよ!」「iPhoneのフィルターはこれにするといいよ!」などと、様々なアドバイスをくれます。
ここの空気感、この景色が目に映る瞬間はこの時しかないのに、後で見返すために、あるいは自分がそこにいたことを証明するために、ひたすらにシャッターを切り続けるツアー客たち。
もったいない。
今、この時この瞬間を最高に楽しまなくっちゃ。
…
頭の中ではそう思っていても、結局ぼくも他のツアー客と同じように、ひたすらにシャッターを切りました。
というより、切ることをやめられませんでした。
この瞬間を「記録しない。」
そういう勇気は、ぼくにはありませんでした。
ツアーは全部で2時間ほどだったでしょうか。
まだ昼前にもなっていないページの町を後にして、車は再び南へ。
続けて目指す場所は、二度目のグランドキャニオン、北側にあたるノースリムと呼ばれるエリア。
そこのキャンプ場が、この日の最終地点です。
ナバホ・ブリッジ
道中、一箇所とても気になる場所があったので思わず車を止めました。
Navajo Bridge(ナバホ・ブリッジ)という名のその場所は、ナバホ保護区の中にある、その名のごとく、巨大な橋。
車と人用にそれぞれ別の橋が用意されていて、人の方には観光案内所も併設されていました。
全くのノーマークの場所だったのですが、ここから見える景色は素晴らしくて、特にこの橋の下を流れるコロラド川の色の鮮やかさには目を見張りました。
あまり有名な観光地ではないぶん人も少なく、のんびりと景色を眺めることもでき、橋を渡っては写真を撮ったり動画を撮ったり、しばらくぼんやり川を眺めたり。
グランドキャニオン・ノースリム
再び車を走らせること数時間。
対向車も並走車もほぼない環境下で、大音量で音楽を聴くことにも飽き、この時はもう、窓を全開でひたすら風を切りながら、何かを考えながら、でも何を考えていたのかも忘れて、ひたすら走り続けました。
もうすぐグランドキャニオンに着く・・・と、ふいに右手に見えた草原に、多くの黒い影。
バッファローです。
一応自然公園内のエリアなので、何らかの管理下にはおかれているのでしょうが、柵も何もない中で放し飼い(飼い?)状態なのには驚きました。
生バッファローは、高校生の時にカナダで見て以来。
そのままノースリムのスポットに観光に向かっても良かったのですが、朝のアンテロープキャニオンとナバホブリッジでもうお腹いっぱいで、どうしてもそんな気にはなれませんでした。
そそくさとテントを準備し、たまっていた作業に手をつけます。
大自然の中で仕事をする。
インターネット環境も良くないし、電源も足りてないのだけど、この瞬間、木と鳥の音しか聞こえない中で一人キーボードを叩くその時間が、たまらなく好きになっていました。
さらにその上を行くのが、夕暮れ前から始める焚き火。
火を見つめながら、これまでを振り返り、そして先のことを考える瞬間が、この旅で一番好きな、大切な時間です。
映画、Secret Life of Walter Mitty(邦題”LIFE”)にて、ショーン・ペンが言った「時々、その瞬間を大事にしたいからシャッターはあえて切らない」というセリフ。
ぼくが映画の中で最も印象的だったシーン。
この時のこのショーン・ペンを、ぼくはとてもかっこいいと思ったし、こういう感性の持ち主でありたいと強く感じました。
だけどこの旅は、ぼくに「シャッターを切らない勇気」がないことを認めさせるものでした。
アメリカという広大で、多様性のかたまりのような国で、自分の凡庸さと小ささを痛いほどに感じる毎日。
旅は、後一週間を切りました。
小さなぼくは、日本に帰ってからどうなるのか。何になるのか。
この時はまだ、何もわかっていませんでした。